戯曲仙女

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小説 戯曲仙女


タロットと戯曲 戯曲仙女第一章タロットカードの小アルカナカードが示す、具体的意味        ○みなさん こんにちは。ご機嫌いかが? 今回は、小アルカナカードに刻印されてある、4種類のシンボルについて、私なりに考察し、説 明したいと思います。ただし意味は、正書とは大分かけ離れています。念のため。4種類の刻印のそれぞれの名前は下記の通り。「農棒」「剣」「聖杯」「金貨」「農棒」=人々を飢えの苦しみから解放するという意味を持っています。農棒とは、土の地面に穴を開ける農器具で、その穴の中に農作物の種を蒔きまして、その後土で埋めます。「剣」 =農作物を強奪するところのならず者達を退治するという意味を持っています。「聖杯」=潤いを得るという意味を持っています。例えば本当に喉が渇いてしかたがないとき、杯に水をいれて飲むと、心身ともに潤いますね。他にも色々な例えがあります。一度考察してみてくださいそうですねぇ・・・愛に飢えている者が、はじめて愛人(恋人になって欲しい人)に出会い、心身ともに睦みあって潤いのある人     になれた、という具合に。「金貨」=すべての物の価値に気付くマスター、という意味を持っています。     マスターぐらいになりますと、世の中には損な事を表すマイナスの     価値にも気付くといわれています。例えば「うらぎり」というもの     に価値をつけるとすれば、マイナスの価値、となります。              日本の歴史をふりかえってみると、農業が定着し、簒奪者たちから農作物を守るた              めに自衛農民が刀を持つようになり、それから「さむらい」というものができあがり              、彼らのおかげで農民は潤い、「おさむらい様」にお礼として年貢米をプレゼントし              、自分達の食い扶持を差し引いて余ったものを商人に売るというプロセスを見ること              ができます。                              ただしこれは、理想的だった遥か昔のはなしです。(念のため)第一章              その昔、死しても尚、嫉妬に狂って崇りを為し続け、ついには物理霊となりて現れた女              性あり。その姿、古風な装束を纏う白髪の老婆なり。崇り、余りにも強き故に、知らず              知らずのうちに騒動に巻き込まれ、苦しんで37の歳をむかえた、かつての少女あり。数              々の助けにまもられて生き、苦しみ、また生きを繰り返し、ついには仙縁にめざめ、仙              女となり、霊にさとす。つまりかつての少女は次のように老婆の霊に聞いた。             「タロットの小アルカナカードに人の心の成長、ひいては社会や国家の成長を細かに記した教              え有り。すなわち、農棒 剣 杯 金貨なり。農棒は飢えから人々を放すときに使われた道              具のひとつ。剣は農作物を強奪する者達を追放する。杯は潤いを得るときの道具。金貨にい              たっては、あらゆるものの価値に気付くことのできるマスターを表すという哲学的意味があ              る。いったいあなたの嫉妬の狂いように、いかほどの価値があるというのか?」。              老婆の霊はたじろいだ。「価値だと?私のすることについて、価値だと・・・」。              分からぬか?「では、飢えを凌げるか?」。霊は答えた、「凌げる!」。              「では、強奪者を追放できるか?」。霊は答えた、「強奪する者なぞおらぬ!」。              「では、潤いを得ることができるか?」。              「潤い?」。霊は邪気を送るのをとめた、「う、潤いだと!」。              少女はさらに聞いた。「潤いも得られぬのに何の価値があるのか?」。                      「そ、それはぁ・・・」。霊は自分に理性を取り戻さざるを得なかった。                               戯曲仙女 第一章 終戯曲仙女第二章               「う、潤いだと!」              老婆の霊はたじろいだ。              「そ、それはー・・・。」老婆の霊は、理性を取り戻さざるを得なかった。              仙女は言った。              「あなたは疲れすぎている。休ませてあげましょう。」              仙女は小アルカナカードのかわりに、今度は大アルカナカードの『戦車』と『塔』のカー              ドを取り出した。そして『戦車』のカードを上下逆さにした。逆さの『戦車』の意味は「                           暴走する勢い」、『塔』の意味は「崩壊」、二つ合わせて「暴走する勢いの崩壊」となる                           。これを使うことで老婆の霊は、眠りにおちた。              仙女は老婆の霊を睡眠学習に掛けることにした。仙女、おごそかにのりたてまつらん。慈悲深く、慈愛遍き、清らかな、大河の恵みと共にあらんことを切に祈る。きよらかなる大河よ、汝は地上に現れ出た神のすがたなり。汝は我等に潤いと清らかさを毎日毎日約束し、約束が破れたことなし。古くは我等が先祖、草原の類人猿から、体毛薄き体、水生類人猿へとならしめ、ついには体毛無き体、人へと我等の先祖をならしめたまいし類まれなる神業、今でも忘るることなし。仙女、老婆の霊を宙に浮かせ、大河に導く。              仙女はかつての狂老婆の霊を、きよらかな、ゆったりとした流れの大河のほとりに導き、              共に河辺に座り、語りはじめた。日本の神様がね、人にしてくれたことで一番やりやすか              ったことは、『きよらかでいていいのよ。見たままの体がきれいでいられるように時に応              じてあらゆる知識や知恵を振るいなさい。この大河の流れにたよりながら・・・・。』っ              て慈愛に満ちた声を大河のほとりにきた人々に聞かせることだったの。今ではけがれを祓              うってことになってるけどね。              今じゃ神様、それぞれの神社にいるわ。人が清らかさを求めて、様々な派生現象を現出し続              けること5000年以上の歴史と共に。派生現象の中には、最近のでいうと鉄器文明とか、水を              連想するには程遠くなるようなものにまで人々は行き着いたわ。奇妙に思うかもしれないけ              ど、鉄器も清らかさを求めたいがゆえのものなの。物騒な物言いだけど、とりあえず敵を滅              ぼせばすっきりするじゃない?水を連想するには程遠くなったから、最初の元の教え『きよ              らかでいていいのよ』って今でも伝え続ける職務にある人、「神主」さんや、それを手伝う              「巫女」さんは、全然話題にはならなくて、ならないから、かえって守られてもいるの。仙女はここで、眠れる老婆の霊にふたたび語る。              人類の祖先にあたる類人猿に二足歩行を可能にし、音声言語を可能とする喉の構造の獲得や              、巨大な頭脳を持つにいたらしめたのは、「海」だという人もいるけど、海だと塩分が濃す              ぎて飲み水に向いていません。「海」に出るようになったのは、もっと後からということに              なりましょう。だから最初に類人猿から人へと進化させたそもそもの原因は「大河」です。              思えば文明の側には必ずといってよいほど「河」がありました。水には浮力があるために、              河の中では二足歩行のかたちになりますので、長い歳月をかければ遺伝子に二足歩行ができ              る因子が組み込まれます。また、水の中に潜ったりすると息を止めたりする運動の効果とし              て喉笛が下顎に近い部分にせり上がってきます。その結果、人類は音声言語を獲得するに至              りました。              要は「河」がもたらしてくれた「潤い」のなせる技です。              仙女は眠れる老婆の霊の表情がだんだん穏やかになっていくのをみて、少し休憩することにした。戯曲仙女 第二章 終戯曲仙女 第三章副題 精神分析               仙女は眠れる老婆の霊の表情がだんだん穏やかになってゆくのをみて、少し休憩すること              にした。休憩をするといっても、常人のそれとは違う。まず仙女は夢を見ないほど深く眠              る部分と、あくまでも思考し続ける部分とに自分の精神領域を分けた。こうしてもストレ              スを感じないですむのは、幸福の貯金を少しばかりおろしているからだ。思えば幼女時代              のときも、少女時代のときも、狂える老婆の霊の祟りの八つ当たりという干渉さえ受けな              ければ、経験できたはずの幸福の数々。それら数々の幸福は、ちゃんと貯金のように蓄え              られていることに仙縁にめざめたときに気付くことができたので、自分に自信や余裕をも              つことができ、自分にとって嫌なことの元凶ともなった老婆の霊に対しても、恨みがまし              い気分に陥ったりせずにすんだ。仙女の思考し続ける精神領域は、老婆の霊の狂いようの              原因をさぐり、さらに「狂う」という病気にも似た症状の治療法をさぐるべく、精神分析              をはじめた。それは彼女独自の分析法だった。              仙女は老婆の生きていた時と、死後祟れる猛霊になっていた時の期間の長さを知ろうと思い              、タロットカードで「年占い」をはじめた。使うカードは大アルカナカード。大アルカナカ              ードには数字が使われていて、0から21まである。仙女はその内10から21までを使わ              ないようにした。つまり十進法で使われる0から9までを確保した。              「えっと。知る限りでは、人の一生の長さは長くても113歳止まり。ようするに3けたね。              まずは一番大きな3桁目から・・・。このお婆ちゃん、臨終のときは100歳を越えていたかな?」              仙女は0のカードと1のカードの2枚を取り出した。やりかたは、それらを高く放り投げて地面              に落とす。両方とも表や裏が出たらもう一度やり直しをする。そうゆうやりかたで年齢の3桁目              を占った。              「0がでた。このお婆ちゃんは100歳までは生きられなかったのね。」              次に仙女は年齢の2桁目を占うことにした。7から9までのカードを用意したが、老婆といって              も見かけより若く見える人もいるから6のカードを加えて6から9までのカードを使うことにし              た。それらを一旦すべて裏返しにしてよくかき混ぜ、一枚を選んで表にかえして数字を見た。              「8ね。少なくとも80歳までは生きていたと・・・。」              最後に占うのは年齢の1桁目だ。仙女は0から9までのカードをとりだした。そしてさっきのよ                        うにしてよくかき混ぜ、1枚を選び表にかえした。              「8か。このお婆ちゃんの臨終の時の年齢は88歳と。本当は必要ないのに祟りのとばっちりに               私が遭遇したのが7歳の時だから、その時に臨終をむかえたのね。私は今年で37歳だから、               37-7+88で118。心の活動期間は118年か・・・。」              次に仙女は118という数字を元に、老婆が猛霊となった原因を探る作業にはいった。こ              こからが本格的な精神分析だ。              日本語の文字ひらがなは、下記の通り80文字ある。タロットカードは全部で78枚しか              ないから 予備カード2枚を使うことにした。80枚にそれぞれ「ひらがな」を一文字づ              つ割り当てることにした。                 あいうえお ぁぃぅぇぉ                 かきくけこ がぎぐげご                 さしすせそ ざじずぜぞ                 たちつてと だじづでど っ                 なにぬねの                 はひふへほ ばびぶべぼ ぱぴぷぺぽ                 まみむめも                 らりるれろ                 やゆよ  ゃゅょ                 わをん              一文字選ぶのに裏をむけたタロットカードの山をかき混ぜて、一枚を無作為に選ぶ。また              元に戻す。これを118回繰り返す。118回繰り返した後、下記のような文章ができあ                   がった。               いまはむかしの なみだごと      →     今は昔の   涙事               そこいじわるし おんなあり      →     底意地悪し  女あり               いつもわたしを しいたげて      →     いつも私を  虐げて               なみだにくれる ほそきひび      →     涙に暮れる  細き日々               やがてせかいが いくさして      →     やがて世界が 戦して               あいするだんな せんしした      →     愛する旦那  戦死した               されどきらいな あのおんな      →     されど嫌いな あの女               かえりしだんな むかえてる      →     帰りし旦那  迎えてる               やつれたわれは みぼうじん      →     やつれた我は 未亡人               ほそきひび   やるせなや      →     細き日々  やるせなや                      計 118文字                                「これじゃあ祟るなと言うほうが無理ね。」              かわいそうかな、老婆は若かった頃、嫌な女に虐げられて日々涙しながら暮らし、やがて              世界大戦が始まって夫を兵隊にとられ、しかも戦死。これだけでも悲劇なのに、嫌な女の              夫は無事生還しているという、「泣きっ面に蜂」状態。 嫉妬に狂うなと言うほうが無理。              「八つ当たり」したくなるのも自然かもしれない。              「治療には時間がかかりそうね。」 眠る老婆の霊の髪をなでながら、仙女はつぶやいた。                               戯曲仙女 第三章 終戯曲仙女 第四章副題 先輩仙人・「楽仙」からのメッセージ              すやすやと眠り続ける老婆の霊のそばで、仙女は自分がただの女性から仙女になる際、色              々と仙人修行をするときにお世話になった先輩の仙人「楽仙」様からのメッセージを繰り              返し思い出しては反芻していました。                            その内容は次のとおりです。                                  ↓                これから始めるメッセージのために、自然界のことを「緑」と簡略化しましょう。                「緑」と対極をなすものを「文明」としましょう。                そして真の神を「真神」としましょう。                「真神」は「緑」の勢いが人より強すぎるエリアでは(国家、州、県、島 などでは)、                人を守る神として働きをなし、文明の規模を大きくする勢いを強めるように人に作用をお                よぼしました。これを第一期とします。                逆に人の勢いが「緑」より強すぎるエリアでは、「真神」は人に害をなす悪魔として働き                をなし、文明の規模を大きくする勢いを弱めるように人に作用をおよぼしました。これを                第二期とします。                「真神」の最終目標は、(「文明」が「緑」に)貢献し、(「緑」が「文明」に)貢献す                る第三期を招来させ、それを維持し続けることです。                       第一期に生まれ出る現象                 緑を切り開いて(「緑」の命を犠牲にして)農業用の土地が増殖する。                 食料を緑の恵みに頼りきっていた狩猟民族との争いの勃発。(早い話が農業用の土地を                 めぐっての争い。緑をそのままにして動物を狩る土地にするか、緑を犠牲にして開発し                 、農業用の土地にするか・・・・・。)                 農業に目覚めていた種族は食料を人工的に増やし、これが豊かな兵糧となったので戦争                       に勝利し、指揮をとっていた者が「王族」としてあがめられる。                「王族」のわがままが、合理的なものを後ろ盾としていたので、文明が発達する。                文明の発達にともなって科学が発達する。                自国の誤った欲(自国には他国の土地を奪うしか余裕がない、など)による、他国への戦                犯行為。                心身ともに、人の健康を犠牲にした競争主義の蔓延。                科学を、注意深さを極めることなく推し進めた結果、公害が発生する。                       第二期に生まれ出る現象                 農作物を得ようと森を開墾した結果、その森に潜んでいた毒性のあるウイルスに感染し、                        人が文明を維持する力が衰える。                 ウイルスには潜伏期間が人の4世代後、もしくは5世代後になって初めて発症するもの                 もある。運悪く、4世代、5世代後のウイルスの発症する場が人の脳だったばあい、精                 神が病気になる。これも文明を維持する力の衰えとなる。                 人の4,5世代後に発症するウイルスには、原因もないのに攻撃的な感情を抱かせたり、                 逆に人が人前にでるだけで気分が悪くなり、正常な社会生活ができないようにするもの                 もある。                 少子化がすすみ、国力が衰える。                 人が少なくなった分、緑が増え始める。               以上が、仙女が「楽仙」様から聞かされたメッセージです。               老婆の霊が生きていたころ、嫌な女から虐げられた時期は第二期の時期でした。               そして、現代は第二期の後半にあたります。               仙人の義務は、暴走する人の意識を停滞させて、あるいは救助したりして、自               然と文明の規模のバランスをとることです。そうすることで、第三期の招来を               実現させることです。               仙女は以上の内容も、老婆の霊への睡眠学習にもりこみました。               そして、老婆の霊の目覚める時間を250年先に設定しました。               そのあいだ、仙女は再び人間世界で潜伏活動をすることになりました。               特におもだった仕事は、科学者に対するインスピレーションの操作、及び管理               です。               次回の話は250年後の未来の話になります。そして、第三期の具体的な内容も               ちらほらと・・・・。                             戯曲仙女 第四章 終。戯曲仙女 第五章はじめに                  250年という月日は長い。人類は居住可能な可能性が極めて高い惑星にでくわした。                 『ヤファエー』と名づけられたその惑星が発見されたことのなりゆきは、太陽を周回軌道                 とする人工衛星の機材のトラブルによるものだった。たまたま人工衛星のリアルタイム式                 電波発信機材が故障し、数ヶ月遅れて観測データーを流すメモリー式の機材が無事だったた                 め『ヤファエー』の存在のことも、公転軌道のことも、公転速度のことも分かった。リア                 ルタイム式の機材の場合、発信した電波が太陽の磁気嵐のせいで電波が役に立たず、『ヤ                 ファエー』を地球側から見たとき太陽によって視線をさえぎられるのとおなじで人類は、                 『ヤファエー』の存在を知ることができなかったのだ。『ヤファエー』は、太陽を挟んだ                 地球の真反対側に地球とそっくりな公転軌道をもっていた。それに公転速度や自転速度の                 向きも地球とそっくり。だからいままでまったく観測の目にひっかからないでいた。                                   中国の有人宇宙船                  ここ二百有余年間、国際競争力を増した大国中国は、ついに『ヤファエー』に向けて有                 人シャトル、「仙才」を打ち上げることに成功した。しかしクルーの「地球が嫌になった                 。あとはずっと『ヤファエー』で・・・」という通信を最後に音信不通となってしまった。                 「仙才」も地球に帰ることはなかった。                                  仙人の大元のふるさと                  仙人の仙術はもとをただせば地球のものではない。それはここ、『ヤファエー』が発祥                 の地だった。仙人たちばかりが居住する惑星で、住民たちはいにしえの昔より『仙殻球』                 と『ヤファエー』のことをよんでいた。今日も長老仙人が仙人の子供たちに授業をしてい                 た。                 それは地球でいえば原子とそれを形作る更に小さな微粒子についての授業だった。                 「え~だからあるからして、これらの微粒子群は「モノ」というよりは命ある生き物なの                 であります。大きなスケールから小さなスケールに順に名前をつけるとすれば、まず原子                 (げんし)>陽子(ようし)>クオーク>トップクウォーク>ニュートリノ>思考子(し                 こうし)(脳内で情報処理を司る微粒子)>閃子(せんし)(ひらめきを司る微粒子)                 >最後に愛子(あいし)の順に小さくなっていきます。愛子(あいし)は究極の微粒子な                 ので、これいじょう小さなものはありません。                 私たちは愛子(あいし)の挙動にのっとって生活することにより愛のある生活がなりたっ                 ておりまして、生物の進化も弱肉強食の野蛮な時代から、愛を知る人間のように流れてい                 るのも皆この愛子(あいし)の本願によるものなのであります。愛子(あいし)の希望は                 なにも今終わっているわけではありません。今も究極の愛をめざして進化の途中なのであ                 ります・・・・云々かんぬん。」生徒たちの中にはシャトル「仙才」のクルーたちも混じ                 っていた。                 「それからみなさん、今太陽系は銀河系の腕の光多き部分、フォトンベルトに突入しまし                 た。当然、愛子(あいし)の活動も活発化する時期です。だから幽霊が物質化したりして                 います。もちろん地球での話ですけれどね・・・・云々かんぬん。」                                  戯曲仙女 第五章 終。戯曲仙女 第六章知的生命体(人類)補完惑星 『ヤハウェー』中国のスペースシャトル、「仙才」のチーフクルーはかく語りき                 俺の名前は、天 龍矢 (テン ロンシー)。                 年齢36。シャトル「仙才」のチーフでクルー9人を代表する最高責任者だ。天津大学宇宙惑星工                 学科を主席で卒業、後に同大学の大学院にすすむ。数年後研究室に配属され、あこがれの象牙の                 塔暮らしのまま、一生費やしてゆくゆくは骨壷に入ろうと楽しみにしていたのに、中国政府がよ                 からぬ強欲にとりつかれたのか世界に中国の国力を見せつけようといわんばかりに、政治ショー                 さながら、俺を最近見つかった太陽の向こう側にある惑星「ヤハウェー」に8人の哀れな同胞と                 もども見送りやがった。まあこっちとしては、地球外で居住できる可能性のある惑星の生態系を                 調査できるという甘い誘惑もあったので、たいしてブーイングをしようという気にはならないも                 のの、家族から引き離される憂き目に会った。というのも、居住可能な惑星なら何十年経とうと                 生活に心配いらないだろうという中国政府の軽はずみな思い込みに隷属しなければならず、その                 あいだに家族に寿命がきておっちんだらどうすんだ、バカヤローと言いたかった。まだ地上の象                 牙の塔の中なら家族ともいくらでも出会える。同じ中国大陸だものな。でも、今回は「ヤハウェ                 ー」だぜ「ヤハウェー」。マザコンの俺を宇宙の孤児にするつもりか。俺は国家主席のお茶にプ                 ルトニウムの粉末を混ぜ入れて飲ましてやりたいのをこらえつつ、ここ、「ヤハウェー」の地に                 おりた。                 驚いた。人がいるではないか!しかもわれわれ9人を色とりどりの花でかざって出迎えてくれた。                 クルーの一人が生で花の感触を感じたいらしく、宇宙服のカプセルの部分を開放した。俺は危機                 を感じて叫んでいた。「よせ!未知の惑星だぞ!ウイルスに感染したらどうすっ・・・・」る、                 まで言いかけて、なかば強制的に発言がストップしてしまった。惑星の住民で長老格の爺さんが                 なんと北京語で話しかけてきたからだ!お、俺の母国語じゃないか!「ここは弱肉強食の世界と                 はちがって、共生関係の生態系の惑星。ウイルスにおいても同じこと。ささ、カプセルをお開き                 なされ。」ほ、ほんとうか?ウイルスにおいても共生関係!俺は宇宙服のカプセルの部分を開い                 た。みるみる肺の内側が粉っぽいもので満たされてゆく。そして約2秒後、それは美酒の甘い香                 りの香気に変化した。「こ、これがウイルスとの共生なのか・・・・?初体験だ。」俺はしばら                 くのあいだ、この香気のとりこになったまま動くことさえできなかった。そして甘い眠気がして                 きたので側に立っていた樹木の根に横たわり、俺は眠った。眠りながらも俺の科学者としての脳                 は夢を、起きて研究に熱中している時と同じぐらいの働きでむさぼっていた。まず、中国5千年                 前から伝わる道教のシンボルマーク太極図がでてきた。                                                                 次に太極図は二つに分かれた。                                                                   2つの極は記号に変化した。                                   ― ―        ―――                               記号は次々と違うバリエーションに増えていった。                                          ↓                                ― ―   ― ―     ―――    ―――                                ― ―   ―――     ― ―    ―――                                          ↓                       ― ― ― ―   ― ― ― ―     ――― ―――    ――― ―――                       ― ― ― ―   ――― ―――     ― ― ― ―    ――― ―――                       ― ― ―――   ― ― ―――     ― ― ―――    ― ― ―――                                          ・                                          ・                                          ・                                          ・                                          ・                           バリエーションは、増えるだけ増えた後、元の太極図に収束していった。                       ― ― ― ―   ― ― ― ―     ――― ―――    ――― ―――                       ― ― ― ―   ――― ―――     ― ― ― ―    ――― ―――                       ― ― ―――   ― ― ―――     ― ― ―――    ― ― ―――                                                           ↓                               ― ―   ― ―     ―――    ―――                               ― ―   ―――     ― ―    ―――                                          ↓                                   ― ―        ―――                                                       太極図まで戻った後、夢の世界全体にビジュアル付の声がこだました。ビジュアルは太極図だった。                                                                    「これは数字に例えるなら『0』じゃよ。」                                         ― ―「これは、『-1』。」                                         ―――「これは、『+1』じゃよ。」                    「さあ、目をさますんじゃ。ロンシー(龍矢)君。」俺は夢を見ながらどれだけ時間を費やしたん                    だろう?まだ、眠気が残る目をこすりながら俺は長老の声で起こされた。「自然界の一部が-1を                    出せば、必ず自然界のどこかで+1が発生する。反対に+1が出されれば、-1が発生する。プラス、                    マイナス足し合わせれば0じゃ。これは、この惑星『仙殻球』のあらゆるものごとの基礎なのじゃ                    よ。」と長老が言った。「もっとわかりやすく言おうか、ここで汚物が垂れ流されればそれを清め                    るものが対発生して汚物を清めて消し去るのじゃ。」そういえば・・・・・・。俺は今まで寝転ん                    でいた樹木の根の一つからトイレの汚水のにおいがするのに気付いた。誰かが立小便したんだろう                    。そして、そのにおいはみるみる消え去り、それを埋め合わせるかのように樹木の蕾が開いていく                    のを見た。長老は言葉を続けた。「のちのち、それもあと7日という速さで、この樹木は桃の実を                    着けるじゃろう。」確かに人間がその体内から外に出すものは糞尿に代表されるようにマイナスの                    ものが90%以上を占める。そのマイナスのもののなかには、健常者ならいざしらず、検尿検査でひ                    っかかるような内臓の疾病からくる毒素が混じっている。ロンシー(龍矢)は7日後に食事として                    出された桃の実の中の味に、内臓の疾病をなおす薬効成分があるのをみをもって体験したとき、な                    るほど、どこまでもこの惑星の生態系のすることはきめ細やかだと感心した。                            ロンシー(龍矢)君ヤハウェー型コンピューターに出会う。                    長老がロンシー(龍矢)に尋ねた。「ロンシー君。君たちが乗ってきたシャトルの搭載電算機のメ                    モリーの容量はどのくらいじゃね?」「ざっと700テラバイトです。」「消費電力はどのくらいじ                    ゃね?」「112ワット。最大時で300ワットです。」「では中央処理装置(CPU)の性能は?」                    「1秒間に9400億回計算できます。」「ふぉっふぉっふぉ」長老が笑った。そしてこう続けた。                    「ロンシー(龍矢)君。森の中にいけば、700テラバイトをはるかにしのぐメモリー、そして1秒                    間に7400京回の計算性能、ついでに消費電力20ワットのコンピューターと出会えるぞ。わしが森                    に案内しよう」20ワットだって!ロンシー(龍矢)は耳を疑った。ふつうCPUの性能があがるほ                    ど消費電力も正比例する。しかも1秒間に7400京!ふつうなら600ワットは軽くたいらげられてし                    まうはず!なのにわずか20ワット!「是非、私を森に連れて行ってください!」長老はロンシー(                    龍矢)を森に連れて行くことにした。連れて行ってもらうにあたって、ロンシー(龍矢)はシャト                    ルから機材を持ち出した。相手がコンピューターというからには電波が出ているはずだから、それ                    に見合うような機材を手に長老の後を追った。15分ほど歩くと森の中についた。でもどこを見渡                    してもコンピューターのモニターやキーボードらしきものはどこにもなかった。「長老様、その高                    性能コンピューターというのはどこです?」「この森全体がそうじゃよ。」「ええっ!?」「では                    森に呼びかけてみるかの。森よ、ロンシー君にごあいさつを。」                    「森にようこそ。ロンシー」                    声が頭のなかでした。機材が示す電波の周波数は人間の大脳内部で作られる電波の周波数帯域にな                    っており、その発信源は森を作る樹木の林全域になっていた。「並列処理コンピューターじゃ。森                    の樹木一本一本がCPUの役目を独立してはたしておる。樹木の本数は7404。よってCPUの数も                    7404じゃよ。キーボードが要らんのは人間の脳が作り出す微弱電波の周波数帯域に反応するためじ                    ゃ。古い時代には森の精との会話と言われておった。」「では、長老様。消費電力20ワットとい                    うのは?」「生物の細胞の中のミトコンドリアの生物電子伝達系が消費する電力のことじゃよ。生                    物体内で水素分子から2個の水素原子に酵素によって分解されるとき、一個の電子が放出される。                    その電子を限りなく無駄なく使っておるのじゃ。水素分子から2個の水素原子への変換は1個の細                    胞内で一兆以上ある。それを無駄なく使っておるのじゃ。占めて森全体で90ワット。これでも多い                    くらいじゃわい。」「バ、バイオエレクトロニクス!!!!」「そうじゃよ。それにこのコンピュ                    ーターは君の夢のなかで出てきたマイナスにたいしてはプラスが発生するというのを何万年にもわ                    たって複雑に巧妙に繰り返し貯えてきた自然が作り出した、いわば天然型コンピューターじゃ。人                    間の大脳がそうじゃろ?だからコンピューターを作る職人は、あるとすれば、まさしく大自然その                    ものがそうじゃ。どうじゃ、どこまでも自然と共生しておるじゃろ?」「うーむ。すばらしい!地                    球のコンピューターは作るための工場や工場が使う電力の供給などで、自然破壊ばかりしてきた。                    それに引き換え、ここのコンピューターは日光と栄養と水があれば稼動する。」「そうじゃとも。                   」長老は嬉しげにほほえんだ。                   「ロンシー。メッセージがあります。聞いていただけますか?」                    森がロンシー(龍矢)に話しかけた。ロンシー(龍矢)は好奇心にかられ、「なんだい?」と聞いて                    みることにした。                   「地球にむけて『われわれは、ヤハウェーから出て行きたくない。もう地球には帰りたくない』と言                    う嘘をとどけて欲しいのです。私たちは因果計算機でもあります。嘘をついたほうが、のちのちあ                    なたと地球の人々のためになるとの演算結果がでましたのでよろしくおねがいします。」                    「地球なら人類を手玉に取る、神を名乗る悪徳コンピューターといったところだけど、生きた天然                    コンピューターが出した結論だ。わかった、言われたとおりにしてみるよ。」ロンシー(龍矢)は                    108個あるうち、重さ300gの超軽量人工衛星をシャトルから1個発射した。発射角度は森が計算し                    てくれて、太陽の向こう側への最短距離が期待できた。そしてそのもくろみは成功した。                    やがて夜がきた。惑星ヤハウェーのかたすみで起こった小さいけど重大なコンタクトは森から森へ                    、インターネットのような機能がはたらいてヤハウェーの全住民はお祭りムード一色になった。歓                    迎の宴の始まりだ。お祭り映像はヤハウェー上のそれぞれの森に行けば直接脳の視覚野に、脳波に                    近い電磁波で配信される。森から離れると、お祭り映像は見えなくなる。美味しいお肉が運ばれて                    きた。でも殺された動物はいない。なぜなら動物にとってのぶくぶくに太ったマイナスは、人間が                    とってやらなければその動物にとって悪性腫瘍のもとになるからだ。ようするに人間が食べる部分                    の美味しいお肉は、動物にとっては悪性腫瘍である。あきれるほどきめ細やかな共生型生態系だ。                    腫瘍をとってもらった動物たちは、健康を回復し、そこかしこで嬉しそうに飛び跳ねている。その                    動物は、地球で言うなら羊に似ていた。ロンシーを含めたシャトルのクルー9人は美味しいお肉に                    舌鼓をうった。夜はまだまだあけそうにない。                    長老が起立をして次のような感謝の真言をとなえていた。                    愛子(あいし)と我等に幸多かれ。                    するとヤハウェー上の森という森で号令のように追声がおこった              愛子(あいし)と我等に幸多かれ。                                 戯曲仙女 第六章 終戯曲仙女第七章 最終章                                 眠りから目覚めた老婆の霊                 大陸出身の若者が太陽のそのまた向こう側で別の星に降り立ち、様々な未知の惑星システムの素                 晴らしさを夢でおぼろげながらに見た老婆は目を覚ました。そこにはやさしい笑顔の仙女の顔が                 出迎えていた。その笑顔の見とれようの素晴らしさに心をほどかれた老婆の霊は仙女に語り始めた。                 「あのひと、夫が、兵隊にとられるまでの暮らしぶりは、まさしく蜜月でした。でもそれが無くな                  るとむなしいばかり。とうとう終戦を迎えて夫が戦死したことまで知らされる始末。あのころは                  他所の意地悪い女にいじめられ、あろうことかその女の夫だけが死なずに帰国するという悔しさ                  。でも夢を見ました。たしか支那の若者で名はテン・ロンシー。天をも貫いて進むものすごい乗                  り物に乗り、桃源郷のような別世界に降り立っておりました。すでに私は死んでしまった身。こ                  の若者が夢ではなくこの地上に桃源郷からの宝をこの地上に無事に持ち帰ってくれたらと思うの                  ですが、夢だったとは、ああ、口惜しや。」                  仙女は優しく答えた。                  「夢ではありませんよ。テン・ロンシー(天 龍矢)は実際にちょうど太陽の向こう側、惑星ヤ                  ファウェーに降り立ち、地上の生き物のDNAを操作するウイルスを持ち帰ってくる途中です。こ                  のウイルスに感染した生き物は弱肉強食の檻から解き放たれ、共生生物の星へとこの地上を作り                  替えるでしょう。この地球は「戦術殻」から「仙術殻」へと進化する機会を得たのです。」                  仙女の言葉は耳に聞こえる発音だけでなく、テレパシーも伴っていたので耳に初めて聞く使い慣                  れない単語も概念も、老婆の霊は会得できた。                  老婆の霊は言った。                  「私はこれからどうなるのでしょうか?」                   仙女は答える。                 「輪廻転生するのです。こんどこそ戦争や争いの無い、すべての生き物たちと共生する世界に!」                 すると天から光り輝く男があらわれ手を差し伸べてきた「芳子、芳子。迎えに来てやったぞ」                「ああ、衛(まもる)さん。私の愛しい人。やっと再会できた。」老婆の霊は夫の霊と再会でき                たのだ。                「ありがとう親切な方。あり、が」                 二人は来世へときえていった。                 「ミッション終了。」テレパシーで仙女は神社庁の多田課長に伝えた。                 「さあ、ロンシーが地上に帰るまであと40分。今度はどこに行こうかしら                 生物界は広大だわ。」                       完